と言う訳で、突然のマイ・ブーム「三島由紀夫」である。

何故か?

前月かーちゃんの介護に行った折、実家の本棚をツラツラ眺めていて、何気に手にしたのが現代日本文学館という文芸春秋から出た全集の♯42「三島由紀夫」だったから。

実に単純。


そもそも2000年からこっち、わしはそれまで頑なに守って来た自分の考えなんて、もう殆どどこかに置いて生きて来た感があるのだ。変なプライドや考えに縛られず、あらゆるものから生きるヒントを貰う為、ただただ流れのままに、目にしたものを見て手にした物を触りという具合。

それが間違っていようが正しい選択だろうが構わない。ただ1999年まで生きて来たそれまでの自分に、明らかに欠けていた「何か」を、必死に捕まえようとしているようなのだ。

だから本でもビデオでも何でも、自分に向かって来た情報なら手当たり次第に飲み込んでいる訳だ。


で、今、わしの人生の三島由起夫に関するドアが開いたのさ。

しかし、この48年間の人生で、三島由紀夫の作品を活字として読んだのは「夏子の冒険」のみ。それも中学か高校のとき、誰かの持っていた単行本を借りて読んだっきりだ。

その頃から、今わしの横にあるこの本は、実家の本棚に有ったというのにの。

そう、この全集は1966年に出版された「現代文学館」の初版本で、三島に死の影すら無い頃の物。二十歳の頃親に宛てて書いた遺書や、初々しい学生服の紅顔の美少年時代の写真なんかが付録についてる。

スリルを求めて肉体と精神の燃焼に拘り、剣道にまい進している姿なんかが紹介されているんだけど、わしがこの本を開いたのは、つい今月の事。

だからアイドル映画の王道「潮騒」の原作者だって、ずーっと川端康成だと勘違いしてた位、彼を知らんのだ。

まっこと、トホホぢゃの〜。わし。

しかし作品のいくつかは、題はおろか内容だって知っている。その情報元は主に映画からなんだけど、そもそも原作と映像は全くの別物と考えた方が良いわけで、キチンと活字で読まなければならない作品だって多かろう。

シミジミ読んで見ると、三島由紀夫って繊細だわなぁと思う。

松平家の血を引き、10代の5年間を有栖川宮家で行儀見習いとして過ごした母方の祖母夏子さんの下で幼年時代を過ごした彼ならではの、本物の貴族趣味も感じるしね。

それゆえのコンプレックスの強さとか、捨てられない物への固執とかもガンガン来るよな。


わしが子供の頃「兼高かおる世界の旅」というテレビの旅番組が大好きで、日曜日の朝はトーストを食べながら家中でこの番組を観るのが恒例となっていた。

その時映像に映る世界の人達の生活も面白かったのだが、何故かわしは兼高かおるさんの言葉が妙に気になって仕方なかった。

上手く書けないのだが、彼女独特の言い回しがあったのだ。

生まれ育った北関東の何処へ行っても、誰の口からも出て来ない不思議な言葉とアクセント。

それが東京の山の手言葉と知ったのは、もう随分後の話。

後々兼高さんの血族の方と知り合いになった時に、その方が山の手言葉について「兼高家独特の言葉ってのも有るんですよ。私は解りますけど喋れません」とニコニコと話してくれた。

東京山の手言葉も、立派に日本国方言の一つだ。でも圧倒的に使用人口が少ない今では、悲しいかな、先のお方の様に「解るけど喋れない」人の方が多かろう。

映画で華族の役をしている人達の中にも、泣きたい程お粗末な人達がいて、これは指導する側にも問題ありかもなぁと思ったりするんだが。

彼の作品には、この山の手言葉がふんだんに出てきて、自分の内に無い言葉だけに、読んでいて面白い。「兼高かおる世界の旅」を思い出したりもするしの。


そういえば、三島は地方の方言を極端に嫌っていたという。

当時としては珍しい世界一周旅行をし、賢くあちこちに見聞の広かった人でありながら、内なる差別意識には抗えなかったのか、どうか。


まぁ、それは今ここで語る話でもないわな。

そうそう。


今までのわしにとって三島由紀夫という人は、高倉健さんと同じく「怖いオジサン」の1人だった。

刺青姿でドスを握り締めてる健さんのポスターと、詰襟姿で演説をブチ、挙句に公開自殺を遂げたブラウン管の中の三島由紀夫は、小学生には十分衝撃的だったさ。

だから本なんか読んぢゃって人となりに接するのが、なんだか恐ろしかったんだわな、きっと。(人ごと)

おまけに自決事件の後、大人達は寄ると触ると首が一度に切れなくて何回かガシガシやっただの、腸が飛び出しただの興味本位に話してて、彼の人となりなんか、もう誰も相手にしてなかった。

わしの周りにいた大人達は。

だけど、小説を読めばそんな過激な所ばかりの人ではない事がすぐ解る。

八頭身で足の長い裕次郎がもてはやされた時代に、祖父も父も自分も日本一の大学を出て、一時は大蔵省勤めをして、どんなに優れた作品をガンガン発表した所で、身長163?を覆す事は出来無い。


ハンサムではあったけど、ハッとする程の美形でもない。正直顔デカイし。それにふとした表情が、いかにも気弱そうだ。

お祖母さんが大名華族の血を引くとは言っても、松平家の側室の子である。正室ではない。


仮に正室だったとしても、サムライなんて、もともとは人殺しの集団だ。

今の時代に生まれていたら、もっと違う行き方が出来たかも知れないのに、本当に勿体無い人だったと思うよ。

せめてあと2〜3年待っててくれたらなぁ。ブルース・リーの存在を知ってからでも、遅くなかったのになぁ・・・。

ああ、でも結局、若くして死ぬから美しいのだっていう考えを増長させちまっただけかもな。

あれれ、そういえば先週の土曜日って、三島由紀夫の祥月命日だったじゃないの。その前日の金曜日はフレディ・マーキュリーの命日だったよな。

二人揃って享年45歳。

う〜ん。由起夫さんもあと5年待ってれば、クイーンのプロモート・フィルムだって観られたのに・・・。


って、ダメか? アフリカ出の出っ歯はダメか? ならばロジャーはどや? あの頃は女の子かと見まごう可愛らしさだったぞ。黒蜥蜴が思わずコレクションしたくなる美しさだったぞ。


・・・・・、うん。確かに美形は夭折してナンボかもだがの。


こんな感じに、おバカなわしのマイ・ブームは続く・・・

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