DVD 松竹 2004/04/24 ¥4,935
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面白い作り方をしたなぁと思う。

がーーーーっと音楽や設定で無理やり感動の涙を流させるのではなく、ごくごく自然に淡々と、死に行く日々を綴っているのだから。

病気で死んで行くというのは、こんな感じがいい。

病気で死ぬというのは、自分がこの世から居なくなっても実は何も変わらないという事実を受け入れて、寂しさからも悲しさからも解放されていく時間を与えられた、ある種幸福な人達だ。



周りの人々は悲しんで、涙を流してくれても、それでもお葬式が終わればそれまでの日常が戻ってくるだけなのだ。


死んだ人の事を思いながらも、それぞれの人生を生きるだけ。


上手に作ったなぁ。


主人公のアンの顔が昨年癌で亡くなった義妹に似ていて、そして彼女とつかの間の愛を交わす恋人との会話や情景が、かつての自分に起こった事を彷彿とさせて、私の中では妙に感慨深い作品になってしまった。


思いつめた表情の娘を見ても、自分の寂しさばかりを話すしかない母親と、遠路はるばる刑務所まで訪ねて来た娘に、やっぱり自分の境遇しか話せない父親。

会話が終わっているのにまだ受話器を放せない父の姿が、この家族の全てを物語っているかのようだ。

人は悲しかったり寂しかったりすると病気になる。

こんなに若くて、こんなに重い病にかかって、それでも取り乱さず、周囲に悟られずに死の準備をしていく姿に、我慢強かった義妹が重なる。

そう、我慢強いというのも一つの美徳ではあるけれど、病を重くする原因でもあるんだよね。

彼女はしっかり者だ。だけど一人で全部抱え込んで、なんでも自分で処理しようとするあまり、周りの人の澱まで引き受ける羽目になってしまっているのに気づかない。

それを両親と職場の仲間の姿で、わかりやすく表現しているのはさすがだ。


母親の家に同居せず、庭先のトレーラーハウスで夫婦の生活を立ち上げているのも、子供が居るのに仕事が長続きせず、父親の自覚にちょっと欠けてる、優しいけどまだまだ甘ちゃんな夫の姿を上手く表現している。

そんな彼女だから、周囲の人達はついつい彼女に精神的におんぶしたがってしまう。

でも、人は自分の人生を他人に預ける事は出来無い。自分の人生は自分で生きないと。

自分の人生を楽しまないと。一人気負って他人の世話ばかり焼く必要もないのだ。

ほどほどに。


僅かな時間の中で彼女はそうやって自分自身に気付き、生き、そして静かに死んで行った。

惜しむらくは、医師とのふれあいにもっとエピソードが欲しかった気もするけどね。

彼が彼女から10年分の娘に宛てたテープを預かる気持ちになった、彼しか解らない理由を暗示するエピソードが欲しかったなぁ。

・・・、解らないからいいのかもな。


コインランドリーで出会ってしまった最後の恋の相手が彼女に見せる男の優しさも、泣かせる。


泣かせるよ〜。


この作品は見ている最中ではなく、最後のエンド・クレジットが出てから、涙が止まらなくなるという変な作用を持っている。

じんわりと染みてくる作品だ。


自分亡き後に、夫にと選んだ女性が子供好きな老人介護専門の看護士というのも、泣かせる。


いゃあ、いい作品でした。お勧めです。


ポップス・ファンには「ブロンディ」のデボラ・ハリーが、疲れたお婆さん役で出ているので、そちらもお勧め。

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