よくお葬式やお彼岸などの頃に家族で喧嘩をすると、「仏様がさせている」とか言うのだが、昨日ついに師父の実家でそれが起こった。

そう、わしが怒ってしまったのだ。

最近は義母に会う度に孫娘の愚痴を聞く役まわりで、いささかというか完全にゲンナリな日々なのだが、昨日も墓参りの後立ち寄った私達の顔を見たとたんに、その愚痴が始まってしまった。

当の本人がいる直ぐ傍でヒソヒソと話し始めるので、そういったヒソヒソ話の大嫌いな私が一旦その話をせき止める様な発言をすると、義母はまるで駄々っ子のような「ご不満」の表情でふて腐れた。

もともと問題発言の多い人で、それも時と場所を選ばずにそれこそ思いのままに言いたい放題なので、周りはいつも迷惑をこうむってしまう。

こんな形のヒソヒソ話は卑怯者のとる態度だもの。それに私はあなたの仲間でもないし、味方でもないからね。勘違いしないで欲しい。


そうこうしている内に、なんと義妹の夫が顔を出した。


まさか来るとは思っていなかったのだが、その前の日に「娘2人の生活費が月5万円」に激怒した義弟が、電話に出ない彼にメールで長々と今の現状を伝えておいたのだそうだ。

その内容はかなり辛らつな物も含まれていたらしい。

そんなこんなで、娘の様子を見に来たのだろう。

飛んで火にいるオマヌケ野郎だ。

彼の顔を見たとたんに、さっき私が無理にせき止めた感情が爆発したのか、義母が心のコントロールを放棄してわめくか如くに今の状態を訴え始めた。

ホント、この世の中無駄が無い。さっき私が「良い人」のふりをして聞いていたら、彼女はここでまた言いたい事を言いそびれてしまったかもしれないのだから。

でもさすがにこの半年で彼女は成長したようだ。ただただ昔のようにひっくり返って泣き喚いたりはしなかったのだから。

「わかっておくれよ、あたしだって言いたくないんだよ。だけどね、あんなに部屋を汚くされて、注意すればソッポ向かれて、あげくに嫌われて。お前だって父親のくせに、働いてるって言ったってちっともお金は入れてくれないし、子供は引き取らないし、休みの日ぐらい朝寝坊させろなんて文句言われたらねもう情けなくって情けなくって・・・・」


あああああーーーー、と慟哭する老婆の姿は、なかなかに迫力があった。


人が泣く時、ただわめき散らしたのでは、感情的に嫌悪感が先立って引かれてしまいがちだ。


でも、この義母の様な泣き方は切々と胸を打つ。

「義母さん、ナイスっ!」

私は密かに彼女にエールを送った。

祖母に文句を言われたと思った義妹の下の娘はその間トイレに逃げ、義妹の夫は目をシバシバさせながらぶつぶつと反論し続けていた。

こいつ目を瞬かせてる。オマケにうつむき加減で相手の顔をまともに見てもいない。

・・・、どれ一発かましてみるか。

別に義母が気の毒だと思った訳ではない。この孫娘との確執は元々彼女が自ら招いた運命なんだし、その尻拭いをするなんてとんでもない事だ。

でも今この問題に「それ見た事か、ザマアミロロロ〜」などとかつての義妹のように相手を見下した態度で知らん振りしていたら、心身の疲労から義母の血圧上がってぶっ倒れた時にこっちにお鉢が回って来てしまう。

それは避けねばっ!!!

で、トイレから出て来た姪を呼んで切々と言ってきかせてみた。

みんなから大事にされている事、今の生活が大変な事、みんなが協力しなければやっていけない事、祖母ちゃんが倒れそうな事当等当等。

姪は涙を浮かべながら神妙に頷いていた。この年頃の子供は自分の感情に素直だ。そして相手の感情にも素直に反応する。本物と偽者を無意識に見分ける。


彼女の心に、私がどう映っているのかは判らない。でも自分を支配しようとしない人の言葉は、わりと素直に聞けるものだ。それに賭けよう。


彼女に話かけながら、昔私の事を「ウチの教育係り」と持ち上げて、子育てを放棄しようとした馬鹿女を思い出していた。


結局彼女はその後自分で自分の運を下げてしまった。子供が私に懐いて実の母親を馬鹿にし始めたのだ。子供は幼くてもちゃんと見ている。誰が全力で自分に向いていてくれるか、誰が手抜きをしているかを。


あれは私がやりすぎたのも原因の一つだがの。


また同じ間違いをする訳には行かない。


で、ポイントを押さえた所で、相変わらず目をパチパチさせている父親の方に向き直って、さあ本番っ!!!

最初は静かに静かに、彼に意見を言わせておいて、だんだんと本音が出やすい方向に導いて行く。

こういう他人に責任転嫁をする奴は、生き方自体が矛盾だらけなので、混乱してて話している内容に筋が通っていない。

で、そこを突いて行く。勿論静かに、下でに。

そうやって周りを囲い、逃げ場を無くした状態にして、一気に核心を突いてしまえば、もう相手は観念するしか無い。

今回もそのやり方で、経済が貧窮した原因は義妹の病気では無いこと、父親としてかなり責任能力の無い事、今の事態は全て自分の無能から出た事を認めさせた。

まぁ、少し声を荒げるという演出もしてみますた。

あんまり落ち着いてても、可愛げないしね。

とは言いながらも、奴に話している時にだんだん自分の父親に話している様な気がして来たのも事実。

表向きは義母や姪の代弁をしているつもりでも、本当は自分が父親に言いたかった事を、この腑抜けの父親にぶつけていたのだろう。

師父の家は、昔からあまり喧嘩をするという事が無かった家だ。義父が若く元気な頃は家庭内暴力も多々あったようだが、それに対してお互いが怒鳴りあったり、派手な立ち回りをしたりする事はなかったのだという。

「親にさからうなっ」この一言で子供達はみなすくみ上がってしまっていたという。

だから、そんな義父や義母に対して「あなた達、一体なんなんですかっ」と怒鳴って抗議したのは、わしだけだ・・・。

そんな私が、一見物凄い勢いで怒ったので、愚痴は言っても肝心な時意見の言えないヘタレな義母が肝を潰して泣きながら「もういいよ」と言い始めた。

その後「私の父親は自己破産した時、家や土地をお母さんの名義にして離婚して、自分は一人で北海道に行ったのに、お前は何だ。妻や子供を路頭に迷わせて、他人に預けっぱにしにして父親面した偽善者っ!!!」という私の言葉に姪が物凄く反応し、わーーーっと泣き伏してしまったのだ。

この子は判っている。父親の不甲斐無さを。

でも、子供は親が大好きだ。一緒に暮してそのダメダメ振りを見ても、愛想が尽きても、やっばり親が好きなものだ。

余程の事が無い限り、いつも親に大切にされていたいと思う。

幻想ではダメなのだ。こんな風に他人に預けて日常生活を共にせずに、時々会っては美味しい物を食べさせてご機嫌を取って「いい父親」を演じていては、いざ現実を知られた時に一気に嫌われて捨てられてしまう。

それもこの男の道なのかもしれないんだけどね。

まぁ、たまたま私と師父のいる時にこの家で出くわしたという事は、こういう意味があったんでしょう。

姪は泣きながら小声で「あんまり言わないで」と哀願して二階に行ってしまった。クールな振りをしながらも心根の優しい子なのだ。


さて、この家族はこの後どうなるのか。

年上の義愚弟も、少しはこりたんだろうか。


それはまだ、判らない。

師父からは、「お役目ご苦労様でした」と労われたけど、この家での私の仕事って、きっとこんな憎まれ役なんだよなぁ・・・…

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