師父の妹の引越しが日曜日に無事終了したそうだ。


ガンに侵された身体を抱えて、気丈に二人の娘と弟夫婦とで、一戸建てから母の住む実家に雨の中を帰って来た。
私と師父は、あえて行かなかった。
それが私達なりの、彼女への思いやりなのだが、その真意が正しく伝わるかなんて、もうどうでも良い事だ。

97年まで、私と彼女の関係は割りに良い方だったと思う。趣味などはまるで反対で、同じクラスだったら絶対に仲間にはならないタイプだが、それでも、義姉妹として、私は彼女が好きだったし、彼女も良く私と話をしたがっていた。


それが、98年の初めにおかしくなった。

キッカケは些細な事だが、其処に行き着くまでの根は深かった。


私はこの時、「臭い物に蓋をすると、メタンガスが溜まって、いつかは大爆発してしまう」という事を学んだのだ。

ヒロとの時に、この教訓が生かされていれば・・・・・・(T_T)


もとい


で、とにかく何やら色々ゴタゴタ有って、師父の家族と私の全面戦争に発展してしまったのだった。

それから私は師父の家では、暫く「あの人」と呼ばれていたらしい。

その頃彼女は、とあるアメリカから来た薬草の「健康飲料」販売に燃えていて、私も仲間にしようとしたのだが、私がすげなく断ったのに腹を立てた、というのもある。

他にもモロモロ。
まぁ、いい。済んだ事だし。

99年に義父が亡くなった時、彼女の「人生」は絶頂期だったのだろう。中古だが一戸建てを買い、夫は役職に着いた。

その頃から態度の傲慢さが如実に現れて、実の兄の師父にさえ「品の無い顔になっちゃって」と言わしめた程、箍が外れた状態になっていた。


「仕事が忙しい」との理由で、実の父親の新盆にすらお線香も上げに来なかったし。

そして2001年の晩夏、突然の乳ガン宣告。告知から僅か一週間で手術・右乳房全摘出。


焦ったように電話を掛けて来た義母に「別の病院の検査とかも受けた方が・・・」と言うと、「二軒行っただよっ!」と吐き捨てた義母。


後で聞いたら同系列の病院だった。執刀医も其処から派遣されてくるという。

親分格の病院は病気の義父がとても信頼していたのに、その彼をまるで「新薬の実験台」「取らなくてもいい腫瘍をとる練習台」にしたかの様な扱いした病院だ。

そして、子分格の病院は、体勢は一応整っているものの機能はしておらず、誰が見ても「老人病院」そのものの入院患者達ばかりがいる所。

彼女は其処で乳房を切った。
そして、沢山の老人に混じってリハビリをした。

乳房外来の有る病院がいくらでもあるこの時代に。
心のケアが大切と叫ばれているこの時代に。


彼女の執刀医である男性は、私達の前で「全部取っちゃいましたから、ね、内臓とちがうし、さっぱりですよ」と言ってのけたのだ。

まだ40歳にもならない女性の乳房を切っても、彼にはなんの感情も湧かないのだろうか。


私は、彼女の人生の持つ凶暴さに恐怖を感じてしまった。

春生まれの優しい「草花」の命式をもつ彼女は、水と草花で出来ている。「水耕栽培の花」が彼女だ。

可愛くて、見てよし飾ってよしの、女性としてはかなり水準が高い方だ。

だが、汚れた水に入ればそれなりに、汚い水に染まって腐ってしまう。剪定しなければ茫々の荒れ放題になってしまう。

剪定するのも、水を綺麗にするのも、自分でしなければならない。

この世の中、全てにバランスが求められているんだなぁと感じる。
二人の子供にも「形が崩れる」という理由で一週間しか母乳を与えなかった人だ。寝る時にも下着を着けたままだった。

柔らかいツヤツヤした栗色の髪の毛が自慢で、特に縦ロールにこだわっていた人だ。

今は、そのどちらも無い。

「あれを飲んでいるから。私は絶対に抜けない」と強気な発言をしていたが、2回目の放射線治療の後ゴソっと髪の毛が抜けた時点で、彼女は「健康飲料」の販売をやめた。


いったんは良くなったかに見えていたのに、今年の夏、肺に転移してしまった。

夫はすでに失職して、信州の方に職を求めて単身赴任している。

そして、治療費捻出の為に彼女達の選んだ道が「自己破産」だった。


中古で買った一戸建ては、今後競売にかけられる。

そして、昨日、彼女は実家に戻って来た。
1人娘がガンになろうが、夫が難病になろうが「あたしはよ、こんなに踊りが上手だで」と、自分の事にしか感心を示さない母親の住む家に。


唯一の救いは、彼女が本質的にはとても素直だという事。二人の娘もしかり。

彼女は愛する二人の娘に、これから育ててもらうのだろう。そして、その母親も。
人生は上手く出来てる。


どっちにころんでも、間違いなんて無いんだな。


朝方酷く降っていた雨も、トラックが動きだす頃には止み、午後には晴れ間も見えていた。


いいんじゃないの。これで。

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